【Bizトレコラム】#4:マッキンゼー、BCG、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーに学ぶ資料作成術

図1 4社の資料作成術は、同じ結論先行でも「意思決定を前へ進める重心」が異なる
なぜ、いま「資料作成術」を4社で比較するのか
情報量ではなく、「情報と判断のつながり」が資料の価値を決める
月曜の朝、経営会議で30ページの資料が配られたとします。ページをめくると、数字もグラフも十分に入っています。ところが10分後、役員から出た最初の質問は「で、結局どうしたいの?」でした。資料を作った側からすれば、必要な情報はすべて入れたつもりです。それでも意思決定者には、何を判断すべきかが届いていません。ビジネス資料で起きる失敗の多くは、情報不足ではなく「情報と判断のつながり」が弱いことから生まれます。
この問題を考えるうえで参考になるのが、戦略コンサルティング会社と投資銀行が長年磨いてきた資料作成の作法です。マッキンゼー、BCG、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー。どの会社の資料もプロフェッショナルに見えますが、よく観察すると重心が違います。マッキンゼーは論理を通し、BCGは洞察を見せ、ゴールドマン・サックスは判断を数字で支え、モルガン・スタンレーは洞察を取引と実行に変えます。
大事なのは、「どの会社のデザインが一番格好いいか」を決めることではありません。資料を使う場面によって、必要な強さが違うからです。複雑な論点を整理したいのか、短時間で重要な洞察を理解させたいのか、投資判断の前提を検証したいのか、クライアントに次の一手を選んでもらいたいのか。本稿では4社の公開資料と第三者による実務解説を手がかりに、資料作成の「思想」を再現可能な技術へ分解していきます。
なお、本稿でいう「マッキンゼー式」「BCG式」「ゴールドマン・サックス式」「モルガン・スタンレー式」は、各社が公式に公開している統一マニュアルの名称ではありません。公開資料や実務解説から共通して読み取れる傾向を、実務で使えるように整理した呼び方です。個別案件やチームによって実際の資料は異なるため、絶対的なルールとしてではなく、資料設計のレンズとして読むのが適切です。
1.4社に共通する「強い資料」の5原則
会社が違っても、プロフェッショナルな資料の土台はかなり共通している
4社には違いがありますが、土台には驚くほど共通点があります。第一に、結論は後ろに隠しません。経営層やクライアントは「背景から丁寧に聞けば、そのうち答えが出てくるだろう」と待ってくれるとは限りません。最初に仮説や推奨案を置き、その後の情報を「結論を検証する材料」に変える方が、会議の生産性は上がります。
第二に、スライドタイトルを単なるラベルにしません。「売上推移」「競合比較」「市場環境」と書けば、何のページかは分かります。しかし、読み手はグラフを読み解き、自分で結論を作らなければなりません。プロフェッショナルな資料では、タイトル自体に「何が分かったか」「だから何を意味するか」を入れます。これにより、タイトルだけを追ってもストーリーが見えるようになります。
第三に、図表は装飾ではなく証拠です。グラフを載せる目的は「分析したことを見せる」ためではありません。タイトルで述べた主張を、最も短い時間で納得させるためです。つまり、データからグラフを選ぶのではなく、証明したい主張からグラフを逆算します。
第四に、本編と付録を分けます。意思決定に必要な情報は本編に置き、計算過程、補助データ、想定質問への回答はAppendixに退避します。情報を削ることと、分析を浅くすることは同じではありません。むしろ、裏側の分析を深く持ちながら、表側は意思決定に必要な情報だけに絞ることが重要です。
第五に、資料は「説明」で終わりません。推奨案、条件、担当、期限、Next Stepまで明確にします。強い資料は読み終えた後に、会議参加者が次に何をすべきか迷いません。4社の違いは、この共通土台の上で「どの能力を最も強くするか」にあります。
共通する土台:結論先行/アクションタイトル/1スライド1メッセージ/図表は証拠/Next Stepまで示す
2.マッキンゼー式 ― 論理を構造化し、結論と根拠で意思決定を促す
キーワードは「読めば筋道が分かる」
マッキンゼー式を一言で表すなら、「読めば筋道が分かる資料」です。複雑な経営課題では、情報量そのものより、論点同士の関係が問題になります。売上が落ちているとしても、原因が市場、商品、営業、価格、顧客構成のどこにあるかで打ち手は変わります。そこで、まず問題を構造化し、結論と根拠の関係を階層で整理します。
中心にあるのがピラミッド原則です。最上位に結論や推奨案を置き、その下に2〜5個程度の主要な理由、その下にデータや事実を置きます。この構造にすると、上位の主張が下位の根拠によって支えられているかを点検できます。「結論は言っているが理由が足りない」「理由は多いが結論につながらない」といった論理の破綻が見えやすくなります。
MECEは、論点を重複なく、重要な抜けがないように整理する考え方です。実務では完全なMECEにこだわるより、「意思決定に必要な観点が整理されているか」を確認するために使う方が有効です。例えば新市場参入なら、市場の魅力度、自社の勝算、実行可能性という3軸に分ければ、「市場は大きいが勝てない」「勝てるが投資負担が重い」といった違いが見えてきます。

図2 ピラミッド原則・MECE・SCRは、それぞれ「主張の階層」「論点整理」「物語構造」を担う
さらに、資料全体の物語にはSituation、Complication、Resolutionという流れを使います。現状を共有し、何が問題・変化なのかを示し、それに対する解決策を提案する。この流れがあると、いきなり提案だけを出すより、「なぜ今この話をするのか」が明確になります。
マッキンゼー式で見落とされやすいのが、PowerPointを開く前の作業です。いきなり図形やグラフを作るのではなく、まず各ページのアクションタイトルだけを書きます。タイトルを並べたときに一つの文章のようにつながれば、資料の骨格はかなりできています。逆にタイトルだけでは話が飛ぶなら、本文を作り込んでもその飛躍は消えません。

図3 1枚のスライドでは、タイトルだけで主張を追える状態を目指す
向いているのは、経営課題の整理、戦略提案、組織問題、複雑なプロジェクトの論点整理です。注意点は、論理を丁寧に書こうとして文章が増えすぎることです。マッキンゼー式を取り入れるなら、「文章を増やす」のではなく「主張と根拠の階層を明確にする」ことが本質です。
主な参照:SlideUpLift「McKinsey-style presentation」ほか
3.BCG式 ― 洞察を短く言い切り、図表で瞬時に伝える
キーワードは「見れば意味が分かる」
BCG式を一言で表すなら、「見れば意味が分かる資料」です。マッキンゼーが論理の道筋を文章と構造で明確にするのに対し、BCGは重要な洞察を短いアクションタイトルに圧縮し、それを大きな図表で即座に証明する方向へ寄せます。
ここで重要なのがSmart Simplicityという考え方です。単に情報を減らして薄い資料にするのではありません。複雑な事実を理解するために、読み手が使わなければならない認知コストを減らします。凡例を見て色を照合するより、グラフ上に直接ラベルを書く。5つの小さなチャートを詰め込むより、最重要の1つを大きく見せる。説明文を長く置くより、タイトルで意味を言い切る。こうした小さな選択が「見れば分かる」に変わります。

図4 BCG式の重心は、Storylining・Smart Simplicity・Visual-first
BCG式では、Storyliningの段階でスライドのタイトルを先に並べます。いわゆるGhost Deckです。中身が空でも、タイトルだけで結論までの流れが自然に読めるかを検証します。この時点で論理を直せば、完成後に大規模な作り直しをする必要が減ります。
図表の選び方も特徴的です。時系列変化なら折れ線、項目比較なら横棒、増減要因ならウォーターフォール、市場規模とシェアを同時に見たいならMekkoなど、伝えたいメッセージに合わせて表現を選びます。大切なのは、珍しいグラフを使うことではなく、読み手が最も早く意味を理解できる表現を選ぶことです。

図5 タイトルが洞察を述べ、図表がその洞察を即座に証明する
例えば「顧客満足度が低下した」という事実を示すだけなら、単なる調査報告です。BCG式では、「価格改定後、価格感応層でNPSが18ポイント低下し、解約リスクが集中している」のように意味までタイトルに入れ、グラフでは該当セグメントだけを強調します。読み手はグラフの細部を読む前に、何を見るべきかを理解できます。
向いているのは、役員向けの短時間報告、データ中心の提案、サマリー資料、経営ダッシュボードです。注意点は、視覚的に簡潔なだけで分析が浅くならないことです。「きれいで情報が少ない」ことと「必要な論点が研ぎ澄まされている」ことは別物です。
主な参照:Slideworks「BCG Approach to Great Slides」/Deckary「BCG Presentation Style」ほか
4.ゴールドマン・サックス式 ― 数値・前提・レンジ・リスクまで含めて判断に耐える
キーワードは「問い返されても崩れない」
ゴールドマン・サックス式を一言で表すなら、「問い返されても崩れない資料」です。金融の意思決定では、魅力的なストーリーだけでは足りません。「その数字はどこから来たのか」「前提が外れたらどうなるか」「最悪の場合はどこまで損をするか」という問いに答えられる必要があります。
そのため、単一の予測値よりレンジを重視します。売上が100億円になる、と一点で言い切るより、基本ケース95億円、上方ケース110億円、下方ケース80億円のように幅を示し、その差がどの前提から生まれるかを説明します。レンジを出すことは自信のなさではありません。むしろ、不確実性を把握したうえで判断条件を明確にする行為です。

図6 明快な結論に、分析の再現性・レンジ・リスク認識を重ねる
財務評価でも、DCFだけで答えを決めません。Comparable Companies、Precedent Transactions、DCF、株価レンジなど複数の評価手法を並べ、結論が大きく乖離していないかを照合します。複数手法が同じ方向を示すなら判断の確度が高まり、乖離するなら「なぜ違うのか」が重要な論点になります。

図7 単一予測ではなく、条件によって結論がどこまで変わるかを示す
さらに、出典、取得日、単位、比較対象、計算ロジック、除外項目を丁寧に管理します。数字の精密さより、再検証できることが重要です。小数点以下を細かく見せても、前提の説明がなければ意思決定には使えません。反対に、数値が丸められていても、前提とレンジが明快なら経営会議では扱いやすくなります。
取締役会目線では、反対材料を隠さないことも重要です。下方ケース、最大損失、撤退条件、代替案を本編に含めます。都合の悪い情報を付録へ隠すと、重要な会議ほど信頼を失います。推奨案を強くするのは、反論を排除することではなく、反論を先回りして検証しておくことです。
向いているのは、投資判断、M&A、財務評価、大型設備投資、取締役会資料です。注意点は、情報密度が上がりやすいことです。分析の防御力を上げるためにすべてを本編へ載せると、かえって判断を遅くします。主要な前提とリスクは本編、詳細モデルはAppendixという切り分けが必要です。
主な参照:Ink Narrates「Goldman Sachs Presentation」/Goldman Sachs公開資料/SEC公開M&A関連資料ほか
この記事は無料で続きを読めます
- 5.モルガン・スタンレー式 ― クライアント固有の洞察を、価値評価と取引設計までつなげる
- 6.タイトルだけで、会議の質は変わる
- 7.4社の型で、誤解されやすいこと
- 8.同じ案件を4社ならどう見せるか ― 「30億円の新規投資」で比べてみる
- 9.どの流儀を使うべきか ― 「会社名」ではなく不足している能力から選ぶ
- 10.最も実務的なのは、4社の長所を組み合わせたハイブリッドである
- 11.実践編 ― 強い資料を作る7ステップ
- 12.会議で読まれるページ、飛ばされるページ
- 13.プロの資料に共通する「編集する勇気」
- 14.「それっぽい資料」で終わる6つの落とし穴
- 15.まとめ ― 学ぶべきは「型」より、意思決定を前に進める思想である
- 参考情報
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